お姫様に花束を
海岸に着いた頃、空はもうオレンジ色になりかけていた。
まだ夏。
まだ海水浴をする人もいていい時期だが、そこには誰もいなかった。
「……静か、だね」
カノンが誰もいない浜辺を見て呟く。
「……あぁ。
でも……綺麗な海だな」
綺麗な透き通った青。
夕日に照らされ、キラキラと光っていた。
「こんな綺麗な海がこの国にあったんだ……」
カノンは海を見たまま立ち尽くす。
「リオンはさ……海、入ったことある?」
「あるよ。
子供の頃の話だけど」
「そっか……」
「カノンは?」
「んー……覚えてないんだよね」
覚えてない?
不思議に思った俺は海から視線を移して隣にいるカノンを見た。
「泳いだ記憶は何となくあるんだけど……。
それがいつだったのか、どこだったのか……よく覚えてないの」
「小さい頃の話?」
「うん、多分」
どこだったのかな……とカノンが頭を捻る。