お姫様に花束を
「でも、本当にどうしよう……。
このままじゃ帰れないし……」
「びっちょびちょだしな。
カノンが水かけてきたから」
「リオンだって結構楽しんでたじゃん」
二人で顔を見合わせて笑う。
ただ、今……この瞬間が楽しくて。
隣にリオンがいることが幸せで――
「おーい!
カノンにリオン!!」
突然、後ろから声がした。
振り返るとゲンさんがこちらに大きく手を振っていた。
私は脱いでいた帽子を慌ててかぶった。
「お前さん達、何でそんなにびしょ濡れなんじゃ……?」
「あ……まぁ……はしゃぎすぎまして……」
リオンが苦笑いしながらそう言う。
「まぁ、若いからのう……ほっほっほっ」
そう笑うとゲンさんはなぜか私の方を見た。
「どうじゃった?
ここの海は」
「とても綺麗ですね。
……初めて見ました。
コアブルにもこんなに澄んだ海があったんですね……」
私がそう言うと、ゲンさんは嬉しそうに微笑んだ。
「この町自慢の海じゃからな。
ナツメ町名物その2じゃ」
「その2……?」
「その1はさっきお前さん達も見た、ナツメザクラ。
その3もその4もあるぞ」
この町の名物……。
「……見てみたいです。
……私、この町のこといろいろ知りたいんです」
ゲンさんはじっと真剣な眼差しで私を見つめた。
……そして、フッと柔らかく笑った。
「……よかろう。
わしに付いてきなさい」