お姫様に花束を
「熱いからな。
気をつけて食べろよ」
ご機嫌なおっちゃんは笑顔のままそう言う。
カノンは手元のコロッケに向けていた視線を俺へと移した。
俺が小さく頷くと、カノンは恐る恐るコロッケへと口を近づけていった。
すると、サクッ……という良い音が聞こえたと同時にカノンは驚いたような顔をした。
「これ……」
「どうだい、お嬢ちゃん」
カノンは目を丸くしたままコロッケを見つめ続けている。
おっちゃんは何も発さないカノンを見て少し心配気な顔をした。
「口に合わなかったかな……」
「いや、そんなことはないと思うけど……」
俺がフォローを入れる。
まぁ、おっちゃんのコロッケは美味しいし。
でも……カノンはコロッケを食べたことがあるのだろうか。
もしかしたらこれが初めて……?
いや、まさか……
「美味しい……」
横から小さな声が聞こえた。
俺がカノンを見ると、カノンはコロッケを見つめたまま微笑んでいた。