お姫様に花束を
「とても美味しい……。
以前、ウチのシェフに作らせたのより断然美味しいわ……」
「シェフ?」
「おっちゃん、そこは気にしないで……」
カノンはもう一口コロッケを食べた。
そして、本当に美味しそうに顔を綻ばせた。
「お肉屋さん……お名前は?」
「俺?
俺はジェイクだけど……」
おっちゃん、そんな名前だったのか……。
知らなかった……。
「ジェイクさん……コロッケを作ってどれぐらいなのですか?」
「え?
あー……そうだな……かれこれ30年以上かな」
「30年……。
じゃあこれはジェイクさんの今までの鍛練によってもたらされた熟練の味というわけですね」
カノンがそう言うと、おっちゃんは少し驚いた顔をしていたがすぐに笑顔になって口を開いた。
「お嬢ちゃん、よく分かってるね。
名前は?」
「カノンです」
「カノンちゃん。
確かにこのコロッケは親父の代から受け継いできて、俺もこの味を親父とそっくりにさせるまで何回も何回も作り続けた。
だけどな、それだけじゃないんだよ。
ウチのコロッケが美味いのは」
「それだけじゃない……?」
カノンが首を傾げた。
すると、おっちゃんはカノンの目をまっすぐ見ながら笑顔で言った。
「このコロッケにはな、愛情が詰まってるんだ」