お姫様に花束を
アパートまであと少し、というところだった。
俺が住んでいるアパートの周りは街灯が少なく、女性は夜に出歩くのを少し警戒する。
だけど、この辺では特に事件は起こったことがなかったので、俺は気に留めていなかった。
俺がいつものように歩いていると、どこかからか声が聞こえてきた。
「……さい。……めてください!」
小さく……でも、この夜明け前の静けさの中では微かに聞き取れる声。
多分、女性の声だろう。
こんな時間に……とは思ったが、何かあっては大変だと思い、俺は声のした方へと足を向けた。
「っ……やめてください……!」
その声が聞こえ、俺はピタリと足を止めた。
声が聞こえてきたのは、狭い路地裏からだった。
こんなところに人がいるのは見たことがないが……でも、確かにここから声が聞こえてきた。
俺は不審に思いながらも、コソッと静かに路地裏を覗いてみた。
すると、真っ暗な中に見えた……人影が二つ。
少し見ていると目が慣れてきたのか、だんだんと目の前の光景がはっきりとしてきた。
そこにいたのは、俺と大して年の変わらなさそうな女の子と中年親父だった。