この空のした。〜君たちは確かに生きていた〜
廊下からは、
「仕方ないな、今日は特別だぞ?お前も十四になり、日新館での武芸の稽古も始まっているんだ。
砲術ばかりに気をとられず、武芸を疎かにしないと約束するならいいだろう」
という、兄上さまのしぶしぶ折れた声がして、
「心得ました!! やった!!! ありがとう兄上!!!」
元気に喜ぶ、利勝さまの声が聞こえてくる。
さき子さまは四つん這いになり、障子をカラリと開け、顔だけを廊下に出して様子を窺う。
はしたないと思いつつも、私もその少し開いた隙間からおふたりの姿を盗み見た。
さき子さまもスラリと背が高いけど、それよりもやはり背の高いおふたりの兄上さまの、端然と廊下を歩いてくる姿が障子のあいだから見える。
「……さき子、何してるんだ。嫁入り前の娘がはしたないぞ」
廊下から見ると、ちょっとありえない低さでさき子さまのお顔が突き出されていたので、兄上さまは驚いて窘める。
けれど口調はどこか笑いをこらえているふうで、隙間から見えたそのお顔は微笑で軽く表情を歪ませていた。
さき子さまからお話を伺っていただけで、お顔を拝見するのが初めての私でも、なぜか親しみを持てる笑顔でした。
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