この空のした。〜君たちは確かに生きていた〜
 


「どうしよう……」



さっきから口をついて出るのは、ため息と「どうしよう……」の言葉ばかり。



………迷ってしまった。



楠さまのお宅までは迷わず行けたのに、帰り道で迷うなんて。


お使いを果たしたあと気が緩んで、近くを見て帰ろうなんて、バカなことを思いついたからだわ。



ここは、どこだろう?



右は 田圃が広がってる。植えられたばかりの小さな稲の苗が、きちんと整列して風になびいてる。

左を見れば 町中へと続く道。だけど入り組んでいて、何度行っても迷って田圃へ出てしまう。



何度目かのため息をついて、私は 空を見上げた。



どうしよう。山の端に夕日が差しかかった。もう日が暮れてしまう。



うろうろとさまよっても足が疲れるだけだと気づいて、田圃の中にぽつんと立つ、大松の根元にあった石に腰を降ろしてから、どれだけ経ったろう。


誰かに道を尋ねようにも、行き交う人は まばらで。それに恥ずかしくて、声をかける勇気が出ない。



「どうしよう……」



何度となく 繰り返した言葉が、またぽつんと落ちた。



ふと、こちらに近づく足音が聞こえる。



(……あ、また)



顔を上げると、朱の色の風景のなか、こちらに向かい誰かが道を歩いてくる。


兄さまと同じくらいの、男の子だった。


風体から、どこかの武家のご子息に見える。
もしかして兄さまと同じ日新館に通っているお方かもしれない。



――――兄さま。きっと今ごろ心配されてる。



そう思ったら、涙が出そうになった。



泣いてはいけない。人前で泣くなんて。
せめて、あの男の子が通り過ぎてから泣こう。



そう、思ったのに。



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