この空のした。〜君たちは確かに生きていた〜
そっと、手を伸ばす。
利勝さまの手に触れたくて。
そのお心に、少しでも触れてみたくて。
その時ピタリと、利勝さまが止まった。
はずみでチョンと、伸ばした指先が利勝さまの手に触れる。
(ひゃっ……!さ……触っちゃった!でなくて でなくてっっ!)
利勝さまに気づかれた!!?
「―――雄治!」
その声に、我に返る。
(……え?)
利勝さまの後ろから顔を覗かせると、
道の向こうから、提灯を携えた人影が見えた。
「八十……」
利勝さまのつぶやきに目を凝らして見ると、提灯の明かりで映し出されたそのお顔は、たしかに兄さまだった。
(兄さま……もしかして、私を迎えに来てくれたの?)
兄さまは、利勝さまの前まで来ると足を止める。
「悪かったな。ゆきを送ってくれたのか」
「ああ」
兄さまは利勝さまの後ろにいる私を認めて頷いた。
その眼差しはいつもと変わらず、優しく細められている。
(兄さま……怒ってないの?)
「今夜は月が明るい。提灯は不要だったか」
「ああ……いや。うっかり忘れただけだ」
さらりと言ってのける利勝さまに、兄さまは呆れてため息をつく。
「まったく……。ゆきも相当なものだが、お前も十分、粗忽者だな」
そうして今来たばかりの道を、踵を返して戻りだす。
「まあ、そう言うなって」
利勝さまも兄さまに追いついて、肩を並べて歩きだした。
おふたりは連れ立って、私のことを気にもとめずにどんどん歩いてゆく。
.