この空のした。〜君たちは確かに生きていた〜
利勝さまはご自分の口元に人差し指をあてる。
「静かに」ってこと……?
すると となりにいた兄さまが、ふっと提灯の火を吹き消した。
たちまち暗闇に包まれて、怖くなった私は、兄さまが握ってくれた手にしがみつく。
「いるか?」
「ああ。ほら見えた」
おふたりのやりとりに、おずおずと辺りに目をやると。
闇の中にともる、小さく瞬く、いくつかのほのかな光り。
「……蛍……?」
私は外で 蛍を見たことがない。
だって、夜に出歩くなんて、ないに等しいもの。
けれど毎年蛍の時期になると、兄さまが私とまつのために、夜話(夜の集会)の帰りに、いつも蛍を捕ってきて下さった。
両の手のひらに大切に包みこまれたそれは、たった一匹で小さな瞬きを繰り返す。
夜など外に出ることのない私達のためにと、蛍を見せてくれる兄さまの優しさ。
それがとてもうれしくて、私とまつはそれを毎年楽しみにしていた。
「八十、こっち」
暗闇に目が馴れてくると、さらに奥へと手招きする利勝さまのお姿が見えた。
「おい用心しろ。川に落ちるなよ」
兄さま自身も慎重な足取りで、私の手を引いて奥へと進む。
(……川?お寺の裏に川があったんだ……)
「田圃にも姿を見かけるが、やはりここが一番だな」
私に教えてくれるように、けど掟があるから、兄さまは独り言を装う。
連れられた先には。
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