この空のした。〜君たちは確かに生きていた〜
ふわり、また風が吹いた。
「ただいま戻りました」
玄関から、ふいに兄さまの声。
……あら?昼前なのに、こんなに早く兄さまが戻られるなんて。
「どうやら今日は、暑くて四ツ帰りだったようね」
さき子さまも、得心したようにおっしゃる。
『四ツ帰り』とは、日新館で猛暑中にだけとられる、学業時間を早めに切り上げることで、
普段は昼八ツ半(午後三時)に終わる授業を、昼四ツ(午前十時)で終わらせることから、このように言っていた。
私は体調がすぐれないため、お出迎えはいいと言われていたので、さき子さまもおられたことだし、兄さまをお迎えに席を立つことはしなかった。
すると続いて幾人かの声で「お邪魔します!!」と元気な挨拶が聞こえてくる。
どうやら兄さまと一緒に、ご友人がたがうちへ遊びに来られたようだ。
そのにぎやかな声に、母さまが出迎える。
「まあどうぞ、お入りなさいな!いま冷茶をお持ちしますわね」
「俺の部屋に行こう」
兄さまの声が聞こえて、ぞろぞろと縁側を渡ってくる音が聞こえる。
私達は縁側から少し離れた場所にいたけど、戸が取り外されていたから、視界の開けた縁側を歩く兄さま達のお姿がよく見えた。
「兄さま。おかえりなさいませ。お出迎えもせずに申し訳ありませんでした」
その場から私が頭を下げると、
「げっ、姉上 来てたのか」
と、兄さまの声ではなく、利勝さまの声が聞こえてくる。
顔をあげて見ると、兄さまのすぐ後ろにいたのは、やっぱり利勝さま。
「げっとは何よ、げっとは!私がここにいてはいけないわけ!?」
ジロリとさき子さまが睨むと、さっと利勝さまは
視線をそらされ、知らん顔をなされる。
その利勝さまの態度に、思わず笑ってしまう。
いつも思うけど、本当にほほえましい。
利勝さまはさき子さまに頭が上がらないのね。
.