この空のした。〜君たちは確かに生きていた〜
私はあわてて、男の子の着物の袖をつかんだ。
後で なんとはしたないことをしたんだと、恥ずかしくて死ぬほど悔やんだけど。
でも この時の私は、とにかく必死で。
男の子が驚いたあと、顔をしかめたのも無視して。
「せめて お名前だけでもお聞かせ下さい!
何もわからず帰したのであっては、後ほどお礼にも行けません!」
懇願するけど、男の子は黙ったまま、私の手から 袖を抜いた。
拒まれたようで、ズキンと胸が痛む。
男の子は私に身体を向き直すと、まっすぐ見つめてくる。
その瞳は力強くて、やっぱり睨まれているように 感じた。
………でもさっきより、全然 怖くなくて………。
今まできつく真一文字に結ばれていた口が、ゆっくりと開く。
「―――利勝だ」
凛とした声が、静寂の中に はっきりと響いた。
「としかつさま……?あの、どちらの利勝さまでいらっしゃいますか?お住まいは……?」
私の次の質問には答えず、少しだけ照れた表情を残して。
利勝さまは またくるりと私に背中を向けて、月明かりに照らされた白く光る道を、足早に帰ってしまわれました。