この空のした。〜君たちは確かに生きていた〜
 


利勝さまはこちらを向かなくとも、まるで私が泣いているのを見越したようにおっしゃった。



「……泣くことじゃないんだ。兄上は、主君と国のために殉じたのだから。立派に戦って 死んだのだから。
それは誇りに思うことで、悲しむことじゃない」



――――ちがう。



「父上もおっしゃっていた。兄上は家名に恥じないよう立派に戦って果てたのだ、兄上は我が家の誇りだと。俺もそう思う」



ちがう。



「ただ残念なのは、もっと兄上に教えてもらうことがたくさんあったから。
こんなことになるなら、もっといろんなことを聞いとけばよかった……」



淡々とこぼれる、利勝さまの言葉。


その声はけして、涙声でも怒声でもない。


感情が消えたように、ただ静かに 紡ぎ出されてゆく。



けど ちがう。利勝さまは傷ついてる。


心の中で悲しんでる。


兄上さまを奪われたくやしさで苦しくて。



泣いて 叫んで、怒って わめいて。



強く握りしめた拳を叩きつけながら、


何度も 何度も。


兄上、兄上と呼んでいる。



そしてその中で、現実を受け入れようと懸命にもがいてる。



けれど、お殿さまのために、お国のために。

力を尽くして戦い殉ずることを、けして悲しんではいけない。



それが『武士道』だから。



だからその気持ちを心の中だけに押しとどめて、必死に……必死に堪えているんだ。



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