この空のした。〜君たちは確かに生きていた〜
利勝さまのお姿はすでになく、先程の行為を後悔していた私は、顔を合わせなくてよかったと心底安堵した。
「……あの袖ね」
ともするとついうっかり聞き漏らしてしまいそうなほどの、小さな声でさき子さまがつぶやく。
「兄上の遺髪とともに帰ってきた、あの切れ端。
……あの着物は、母上が兄上の上洛の際に仕立てあげたものなの。
まさか こんな形で戻ってくるなんて……」
母上がかわいそう、と、目に涙を浮かべてさき子さまは俯かれる。
涙の滴がいくつも落ちて、縁の板間に染みた。
そんなさき子さまのお肩をさすってあげることしかできない。
私は、無力だ。
庭から玄関へと出て、門をくぐる。
すると道の角で、驚いたことに兄さまが立っておられた。
「……兄さま!?」
声をかけると、寒さを堪えていたのか腕を組み俯いて佇んでいた兄さまが、顔をあげると安心したようにやさしく目を細める。
そして ひとつ頷いて目で合図をよこすと、私の前を通り過ぎ、帰り道をゆっくりと歩きだした。
………兄さま。
兄さまも心配で、 私を迎えにきて下さったのですか……?
.