この空のした。〜君たちは確かに生きていた〜
「あの軍服、なかなか作るのに苦労しましたわ」
「ええ、本当に。雄治はダンぶくろが嫌だったようで。
変わりに新しい袴(はかま)を仕立てましたの」
母さまとくら子さまの声を聞きながら、私は焦燥感を募らせて利勝さまのお姿を探した。
そしてようやく「―――あっ!」と、そのお姿を見つけた時には。
利勝さまは、もうこちらを見つめていた。
ドキン!と 胸が鳴る。
利勝さまも、白い鉢巻きに黒い詰め襟の軍服を着た凛々しい若武者姿で、
その表情は穏やかに、真摯な瞳をこちらに向けて行進してくる。
―――目が合っていると確信した訳じゃない。
私のすぐ横にいる、お母上さまと姉上さまを見ておられるに決まってる。
それでも、その視界のほんの端でもいい。
私が映っているのなら。
ちゃんと笑顔でいるところを見てほしい。
『このあいだのことなら気にしてませんよ、だから利勝さまも安心してお忘れ下さい』と。
そんな思いを込めて、私は微笑んだ。
一瞬、利勝さまが目を瞠(みは)る。
けれどもすぐ視線をそらせて前を向いた。
そのまま通過する背中を見つめて、心に淋しさが滲む。
(……利勝さま。行ってしまわれた……)
「まったく……、笑顔も見せないんだから。本当にそっけないわねえ」
となりでさき子さまが苦笑したようだった。
そんな声を聞きながら、私は隊列の中に見つけたお顔に驚いていた。
(……悌次郎さま!)
どうして?
兄さまのお話では、十五歳だから入隊は無理だったと聞いていたのに……!?
その悌次郎さまも、意気揚々とした面持ちで歩いておられる。
みんな みんな。胸を張って。
そのお顔を 輝かせて。
(ああ……そうなのですね)
男子ならば。武士の子ならば。
やはりそう望むのですね。
いってらっしゃいませ。
皆さま、どうかご無事で戻って参られますように……。
.