この空のした。〜君たちは確かに生きていた〜
 


それから………利勝さま。
どうか 無茶だけはなさいませんように。


怒ったお顔でもいい。不機嫌なお顔でもいい。


どんな表情でもいいから、利勝さまのお顔を見せて。


早くあなたに 会いたい。


閉じているまぶたの裏に、利勝さまのお姿が浮かぶ。

私に向けるお顔は、いつも決まって不機嫌だけど。


でも あなたの瞳を見つめるだけで。
あなたと言葉を交わせるだけで。


ただそれだけで、心に熱が灯るの……。


会いたい――――。


ひとつ息をついて、まぶたを開く。


お社を見つめたまま、しばらく手を合わせて立ちつくしていると、少し離れたとなりに、やはりお諏方さまに参拝にきたご婦人がいた。

同じように手を合わせて、ご婦人はつぶやく。



「どうか悌次郎が、無事に帰ってきますように……」



つぶやかれたその言葉に、思わず私は振り向いた。


この人は……もしかして。



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