この空のした。〜君たちは確かに生きていた〜
 


母さまのお姿につられて、私の目にもうっすらと涙が浮かぶ。



いつもは気丈に振る舞っておられた母さまも、本当は心配で心配でたまらなかったのだわ。



「継母上……ご心配おかけしました」



兄さまも十数日ぶりの我が家へ戻って安心したのか、頬を緩ませて幼子のような笑みを見せた。



「さあさ、草鞋を脱いで早くお上がりなさい。
疲れたでしょう?すぐお夕飯にしましょうね!

今日はお諏方さまのお祭りですもの。あなたの好きな五目ご飯もたくさん作ったのよ」


「それはうれしいな!実は腹ぺこだったんです」



兄さまが笑うと、母さまも目元を拭って笑い返す。



そうして立ち上がると、食事の準備をしに台所へと向かわれた。

朔じぃがにこにこしながら、濯ぎの準備をしにいく。


私が上がり框の上に置かれた兄さまのお荷物をお部屋まで運ぼうとすると、同じく上がり框に腰を下ろして、草鞋の紐をほどいていた兄さまの手がそれを止めた。



不思議に思って顔をあげると、兄さまは柔らかく目を細めておっしゃった。



「ゆき。お前はちょっと表に出てくれ」


「はい……?」



首をかしげる私に、兄さまはただ優しく笑われるだけ。



朔じぃが持ってきてくれた水の張った盥で濯ぎを済ませながら、



「ほら早く。行ってこい」 と、私を促した。



………それは。……もしかして……?









(すす)ぎ……足を洗うこと。また、そのための水や湯。

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