この空のした。〜君たちは確かに生きていた〜
「―――おい。待てよ」
その声に呼び止められて振り向くと、もう一度そのお顔を見つめる。
利勝さまは、視線を一度だけ揺らしてから私を見据えると、きつく真一文字に結んでいた口を開いた。
「俺も。……俺も、もう抗うのはやめる。自分に正直になる。
どんなに拒んでも、切り捨てようとしても。
そうできないものもあるってわかったから」
意を決したように、真面目なお顔でそう伝えるけれど。
「……?あの……?おっしゃる意味が、よくわからないのですが」
言葉の意味がわからず、私は首をかしげた。
「……っ!!」
利勝さまはとたんに目を見開いて頬を赤らめた。
そしてがっくり肩を落としたかと思うと、クッと笑い出した。
「……まったく!お前ってやつは……!つまり、お前は今のままでいいってことだよ!」
(……えっ?)
利勝さまは肩の力が抜けたようにひとつ大きく息をつくと、担いでいた木刀をトンと地面に下ろして、それに寄りかかった。
そしてこの空のどこか遠くを眺めながら話し出す。
「……兄上の訃報を聞いたとき、この身を捨てても必ず仇を討つと決めた。
天下泰平の世なら武士の私闘は許されないが、この戦で忠義も仇討ちも叶うのだから、俺は運がいい。
だがそのために、未練を残しそうなものは すべて切り捨ててしまわなければと思った。
どうせ先は見えているのだからと」
敵を討つ技量さえあればいい。
それがひいては殿のお役に立ち、国を守ることになるのだから。
利勝さまは遠い目でそうつぶやく。
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