この空のした。〜君たちは確かに生きていた〜
 


まつが下がって、兄さまとふたりきりになると、機嫌を窺いつつ、気になっていたことを尋ねてみた。



それは―――利勝さまのこと。



「……兄さま。兄さまの日新館のご友人に、利勝さまというお方はおられませんか?」



きっと名を言えば、兄さまがわかって教えて下さるだろうと、軽く考えていたのだけれど。



「―――利勝?……いや、いないな。知らぬ名だが」



予想と違う返答に、期待した私の心はいっきに(しぼ)んだ。



「そんな……」

「その利勝という者が、どうかしたのか?」



肩を落としてうなだれる私に、兄さまはいつもの穏やさに戻って尋ねる。



「帰り道がわからなくなった私を、家まで送って下さったお方なのです。
迷わず まっすぐ連れてきて下さったので、てっきり兄さまのご友人の方だと思ったのですが……」


「なるほど。それで 無事、帰ってくることができたんだな」



そうおっしゃると兄さまは、ふむとひとつ唸られた。



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