この空のした。〜君たちは確かに生きていた〜
 


あたたかな手のぬくもりに、心が溶けてゆく。



さっきまで、それでもまだ信じられないとどこかで思っていた私。


けど、このぬくもりは嘘じゃない。





………ね?利勝さま。



この手を通して、私の想いがあなたに流れこんでしまえばいいのに。



私の想いと、利勝さまの想い。



混ざり合って、同じになれたらいいのに。



そしたら私と同じくらい、

利勝さまも私のことを好きになってくれますか?



そんな願いを込めて、つないだ手をキュッと握ってみる。



     
    『好きです』。



そしたらもっと強い力で、ギュッと握り返してくれた。



    『わかってる』。



―――そう おっしゃってくれたように。






………ほらね?利勝さま。



何もしてやれないなんて、そんなの嘘。



だってこうして、私の想いに精一杯応えようとしてくれる。



言葉はなくとも、利勝さまの優しさを感じる。



………ね?利勝さま。



あなたがそばにいてくださるのなら、私はいつも笑顔になれるんですよ?







暗い夜道を、手をつないだまま ふたりで歩く。



私の半歩左前をゆく利勝さまは、気恥ずかしいのか、一切こちらを振り返ろうとしない。



そんなあなたが愛おしい。



道端のそこかしこから、涼やかで心地よい虫の音が、私達をそっと包む。



前を照らす提灯の明かりは、まるで利勝さまの手のよう。



いつだって私を導いてくれる あたたかな光り。






――――このまま、時が止まってしまえばいいのに。


明日なんかもう来なければいいのに。



ずっとこのままで。
ずっとそばにいてほしい。



けれどそれは、けして言葉にしてはならない想い。



だって それを望んだら。

利勝さまの願いは叶わない。






だから いいの。もう 大丈夫。



たとえこの恋が 儚い夢で終わったとしても。



きっと 悔やんだりしない。



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