この空のした。〜君たちは確かに生きていた〜
進軍命令にも、最初は隊を二分し、一隊は援軍として進軍、もう一隊はこのまま宰相さまの護衛に留まるよう意見が出されたのだが、
これには隊の嚮導役の一人である、西川 勝太郎どのが決然と異を唱えた。
「お言葉ですが、敵は大軍です。一兵でも多く援軍を望む戦いに、隊を半減するのは攻防どちらを取っても不利になり、得策とは思えません。
それに我々は誰に於いても、留守を預かる隊に選ばれたのであっては悔いが残ります。
ここは全隊一丸となって事に当たるべきです」
この発言に、隊士たち全員が賛成した。
そうして我々士中二番隊は、全隊で戸ノ口原へと進軍することになったのだ。
――――降りしきる雨の中。
滝沢本陣御門の前で、宰相さまから激励のお言葉を賜り、
我々白虎士中二番隊三十七名は、隊長以下小隊頭二名、半隊頭二名合わせ計四十二名で、
雨天にもめげず滝沢峠の急勾配な坂道を、皆 意気揚々とした面持ちで進軍した。
峠の頂上付近まで来ると、山ひとつ向こうの戦場からしきりと砲声が響いてくる。
我々は隊長に指示され、近くにある舟石茶屋に立ち寄り、弾を込め軽装になることとなった。
携帯していた荷を茶屋に預け、銃に弾を込めているあいだも、その砲声を耳にするたび押さえようもない興奮が心の内に広がる。
まわりの皆もそうだ。
意気揚々としていた表情に、緊張の色が見え隠れしている。
俺達は互いの顔を見合わせながら支度を済ませると、隊長に続き、戦場への道を一歩一歩
踏みしめるように駆け足で峠を進んでいった。
―――このとき、継母上が用意してくれた非常食や水筒を置いてきてしまったことを、あとあと後悔することになるのだが、
戦いの意欲に気をとられていた俺達には、まだ知る由もなかった。
大野ケ原の手前の強清水まで来ると、味方の軍隊も目についた。
緊迫する戦場の前線に近づけたことが、俺達の士気を高める。
雨はいっこうに止まない。皆ずぶ濡れだった。
だが そんなことはどうでもいい。
………とうとう、ここまできたんだ。
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