この空のした。〜君たちは確かに生きていた〜
 


とっさに、周囲のどこかにいるだろう草色を探した。

だが、ゆうべのことを思い出して目を伏せる。


あれからなんだか気まずくて、見張りの交代の時以外は寝たふりを決め込み、自身の殻に閉じこもって、ただ夜が明けるのをひたすら待った。



明るくなっても、雄治は俺に近づいては来なかった。


ゆうべのことで、約束は反故になったか……。



隊士達は身をかがめながら、視界の悪い濃霧の中を銃声を頼りに前進し始める。


いつのまにか、俺だけ立ち止まっていたようだ。



「八十治どうした?早く行かないと出遅れるぞ」



後ろから来た俊彦が声をかける。



「……あ、ああ」



我に返って思い直した。



そうだ。どうせ戦闘になれば、お互いを思いやれる余裕などなくなる。


戦いの混乱の中で、雄治の行動を掌握してつねにそばにいるなど、最初からできるはずもない約束だったんだ。



俺は前方に進んでゆく隊士達の背の中に、もう一度だけ草色を探した。



< 369 / 466 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop