この空のした。〜君たちは確かに生きていた〜
 


疲労と空腹と、いつ敵に襲撃されるか分からない不安の中で。


俺は歩きながら―――いつしかゆきと出会った頃のことを思い出していた。


ゆきが初めて家に来たとき。

忘れもしない。俺が八つ、ゆきが七つの時だった。


最初は足を気にしてか、引っ込み思案で人と接することにひどく臆病だった、ゆき。


家に来てからも外にいっさい出ることはなく、そのせいか名の通り、肌は抜けるように白くて、黒目がちな瞳にはいつも憂いの色が滲んでいた。


新しくできた継母上とそんな義妹に、俺は少しでも早く好かれたくて、空いた時間を見つけては、何かとゆきを誘って相手をしていた。


足のことも、あえて気にしないようにした。


俺が気にしたら、それ以上にゆきが気にすると思ったから。


ゆきはそんな俺に戸惑いつつも、いつも控えめに笑みをこぼしてくれた。

その時だけ、白い頬が薄桃色に染まるのが、なんだか可笑しかった。


努力のかいがあってか、ゆきが初めて俺に打ち解けたような笑顔を見せてくれたとき、ひどく驚いたことを覚えている。


心の臓が、まるで太鼓を叩くように打ち響き、全身が熱を帯びて。


己がなぜこんな状態になるのかわからずに、ひどく動揺した。


だがそれでも心が高揚し、うれしいと感じる自分がいて。


初めて沸きあがる感情にひどく戸惑った。



そして、ゆきのそのあどけない笑顔が、とても大切なものに思えた。



この笑顔が見れるなら、何でもしてやりたい。

お前を守りたい。



誰かにそんな気持ちを抱いたのも、初めてのことだった。



………ゆき。お前は、知らないだろう。



初陣から戻った晩、俺の手を握りながら眠るお前のとなりで、俺がほとんど眠れずにいたことを。


お前の寄せてくれる絶対的信頼が、俺を苦しめていたことを。


お前が俺を慕ってくれるたび、お前が俺に甘えてくるたび、

俺の心が どれだけひどく乱れていたか。

どれだけ、お前を抱きしめたくてたまらなかったか。



――――いや、知らなくていいんだ。



こんな気持ち。



お前は 一生、気づかなくて いい………。




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