この空のした。〜君たちは確かに生きていた〜
己の精神が未熟なゆえに、ゆきを傷つけてしまったこともある。
己の想いが、どうしても揺らいでしまうこの心が疎ましくて。
まつは恋をしているから、婚儀を取りやめにしてほしいと頼むゆきに、
つい『恋などしても叶うことはない。自分がつらくなるだけだ』と、厳しく言ってしまった。
―――まつのことを思うと、目を伏せてしまう。
俺だって、まつの気持ちに気づかなかった訳じゃない。
あの日 気づいてしまった、まつの想い。まつの涙。
だがまつが俺に淡い恋心を抱いたとしても、俺にはどうすることもできない。
だからあえて、素知らぬふりを通した。
俺にとってまつは、頼れる姉のような存在であり、大事な家族の一員だったから。
それとは裏腹に、俺と同じ立場にいるまつの気持ちは、痛いほど分かった。
どうにも越えられない壁に悩むまつの想いは、俺のゆきへの想いそのものだ。
その自責の念に囚われていて、ゆきが外に出たことにも気づかず、
ケガを負ったゆきが雄治に背負われて帰ってきた時は、張り手を喰らった気分だった。
己が腹立たしくて仕方なかった。
そのせいで、ゆきを泣かせてしまったことにも後悔した。
それでも、どんなに厳しく言ったつもりでも、ゆきは雄治への想いを持ち続けた。
想うことをやめなかった。
だがその想いも、どうやら天は許してくれなかったようだ。
激しい時代の渦に飲み込まれそうになっている我が藩の窮地に、俺達は命を賭して戦うことを決意した。
俺にはそれが、ある意味救いに思えた。
これでやっと、この想いから解放される。
しかしゆきにとって、これ以上つらいことはないだろうと思えた。
自分の惚れた男が、明日をも知れぬ身となるのだ。
そんなゆきに俺がしてやれることといったら、
いつも以上に穏やかに笑っていることと、雄治のところへ向かわせてやることくらいだった。
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