この空のした。〜君たちは確かに生きていた〜
 


洞門の入口を見つけると、「中の様子を見てくる」 と、篠田どのがまず入っていった。

一同はそれを見守る。

しばらくして戻ってきた篠田どのが言った。



「中は暗くて何も見えない。手探りで前に進むしかない。
水量は腰くらいだ。昨夜の雨で増水したんだな。
足元は滑りやすいぞ。みんな慎重に足を運べよ」



一同は頷くと、篠田どのを先頭に一列縦隊にならんで、冷たい水の中に足を踏み入れた。



俺は雄治が心配だった。



意識ははっきりしているものの、雄治はずっと苦しそうに顔を歪ませていた。

歩くのもひとりではままならない。

俺は雄治に肩を貸しながら、奴の身体を抱えるようにして水の中に入っていった。




洞門の中は、言われたとおり真っ暗だった。



目の前を歩く隊士の銃や大刀を各々(おのおの)で掴み、はぐれることのないよう慎重に進んでゆく。


先頭を歩く篠田どのは、それこそ手探りだろう。


それに水は刺すように冷たい。


雨で増水した猪苗代湖の水は、高地から落ちてきて、勢いよく洞門の中へと流れ込む。


水苔でヌルヌルとした足場の悪さも手伝って、何度も俺達の足元を(さら)おうとする。


仲間が足を取られて態勢を崩したり、天井から落ちる冷たい滴が首筋に当たるたび、暗く狭い洞門の中で奇声が響いた。


足が思うように動かない雄治は何度もすべり、流れの中に沈みそうになる。


そのたび俺は、何とか踏ん張って雄治の身体を引き上げた。



「雄治!大丈夫か?あと少しだ、がんばれ!」

「ああ……」



暗くて雄治の様子がわからない。

声をかけるたび か細くなる返答に、早くここを出なくてはと心ばかりが焦る。



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