この空のした。〜君たちは確かに生きていた〜
雄治はもう一度、手拭いを見つめる。
そうして力を溜め込むために、荒い息を整えようとする。
そんな雄治が頬を緩めた。
「これで……あいつに、しるしを残してやれる。俺も八十も、ここにいると。
ありがとな……八十。俺をここまで連れてきてくれて。
おかげであいつとの約束を果たせそうだ……」
『俺と八十は、つねに行動を共にしようと約束してる。
だから俺を探せば、隣に八十もいるはずだ』
そうだ。お前はたしか、ゆきにそう言っていた。
「ああ。ゆきは必ずお前を見つけるさ。俺も一緒に見つけてもらえる。
あいつは強くなったよ。俺達がいなくても……きっとゆきは大丈夫だ」
俺が強く頷くと、雄治もそれを願うように頷いた。
「なあ……ひとつだけ聞かせてくれ。お前は ゆきをどう思ってた?
最後にお前の口から、直接聞きたい」
俺が訊ねると、雄治の顔が途端に情けないものになる。
その顔に、少しだけ生気の色が灯った。
雄治ははにかんでいたが、それでもゆきを思い出して目元と口元を優しく緩ませた。
そして 俺をまっすぐ見つめると、精一杯 力強い声を出す。
「……惚れてたよ。俺なりに大事にしたいと思ってた。
お前も……そうだったんだろう?」
雄治は俺に訊ね返す。
「ああ……そうだな。俺も、同じだ」
そう答えると、雄治はふっと笑った。
――――きっとお前は、その言葉をゆきに告げたりはしなかったんだろう。
聞かせてやりたかった。お前のその言葉を。
見せてやりたかった。お前のそのらしくない微笑みを。
けれどもう、それも叶わない。
だが いいんだ。これでも俺なりに、精一杯やったのだ。
精一杯 生きて、精一杯 戦ったのだ。
悔いは残る。だが、後ろ髪を引かれることはない。
「―――もう、思い残すことはないな」
俺は上着の留め具をすべてはずし、胸元を押し広げると、持っていた小刀の柄尻で左胸を示した。
「俺が刺せと合図したら、渾身の力を込めてここをつらぬけ。俺もお前の 心の臓を狙う」
雄治は頷くと、両手で小刀を持ち、その刃先を俺の左胸に向ける。
俺は左手で雄治の肩を掴むと、同じように刃先を向けた。
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