この空のした。〜君たちは確かに生きていた〜
第五章 いま、私にできること
あなた
…………あ。なんだろう。
「……兄さま?」
いま、兄さまに呼ばれた気がした。
おもむろに立ち上がる。
するとすぐ、まつに呼び止められた。
「……ゆきさま!外に出ては危のうございます!」
「……でも今、兄さまの声が」
私の言葉にまつは目を瞠ったあと、それを伏せて表情を暗くした。
「……ここらへんは すでに、西軍の占領下になっているはずです。先程様子を見て参っててきた村人もそう申しておりましたでしょう。……きっと 空耳ですよ」
「でも……」 と、なおも腰を下ろさない私を、まつは目だけで制止する。
「ならば、朔じぃに近くを見てもらってきましょう。
朔じぃ、お願いできるかしら」
母さまの声に、「はい、奥さま」と、朔じぃが腰を上げる。
朔じぃが行ってしまうと、私は仕方なく腰を下ろした。
「ゆきさまは、吾郎をお願いします」
言うなりまつは、自分の腕に抱いていたものを、私に押しつけてきた。
まつから預かったのは、この春まつが産んだ大切な跡取り息子の吾郎ちゃん。
眠っている吾郎ちゃんをなかば強引に腕に抱かされ、私は身動きがとれなくなった。
…………兄さま。
今 どうしておられますか?
利勝さまもすぐおそばにおられますか?
どうか どうか、 おふたりともご無事でありますように……。
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