この空のした。〜君たちは確かに生きていた〜
 


村に戻ってみると、荒らされた形跡はあったものの、村は焼かれていなかった。


きっと風向きもよかったのだろう。
城下の火も、さすがにここまでは届かなかったようだ。


村人達は焼失を免れたそれぞれの家に、何日かぶりに帰ってゆく。


肝煎であるまつの家には、敵兵か野盗かに家捜しされた形跡があり、乱暴に外された板戸や、食べ物を求めて台所をあさった跡が残されていた。


座敷のほうも土足で上がられ、箪笥の中を引っ掻きまわされて物色された痕跡があり、着物などが散乱している。


噂には聞いていたけど、町や村が戦場になると敵兵の掠奪(りゃくだつ)の横行や、その混乱に乗じて野盗が出るとは、このことなのだと改めて気づかされた。


それを目の当たりにすると、頭から血の気が引いてゆくのが自分でもわかる。



山を降りてくる時も、まだあちこちに(くすぶ)る火の残る城下を望んだ。

街道脇に(たお)れ伏した兵士達の屍も何度か見た。



そのたびに背筋が凍える思いをしたけれど、それは戦いに臨んだ者達の宿命なのだからと、自分に言い聞かせて目耳を塞いできた。




けど、これは………。




いったい どうして?
なぜ 戦争なんて起こるの?

なぜ 関係ない人まで巻き込むの?



まつの家の家主さんも、会津軍の使役のため駆り出されているという。


戦争は身分の低い者にまで過大な影響を及ぼす。


たしかに今までの徳川の世を終わらせ、新しい世の中を作るためと掲げるこの戦争は、この日本という国で暮らす、すべての人に関係のあることなのかもしれない。

それでもすべての人達がこの戦争を支持し、参加している訳ではないのに。


立場の弱い人達は、降りかかる戦争の火の粉を、ただ黙って受け入れるしかないの?



争いはそうやってすべてのものを飲み込み、そして奪ってゆく。



私は争いを起こした武家側の人間として、村の人達にとても申し訳ない気持ちになっていた。



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