この空のした。〜君たちは確かに生きていた〜
 


「ゆきさま!?」



悲鳴に驚いて、まつが部屋に駆け込んでくる。


顔を覆い、大声で泣き喚く私を落ち着かせようと、まつが抱きしめる。


けれども錯乱していたせいか、抑えつけられる力に抗うように暴れた。


苦しみを包み込もうとしてくれる、まつの腕さえ払いのける。





だって 利勝さまがいないの。



もう 近くにはおられないの。
遠くへいってしまったの。



覚悟していたはずなのに。



漠然としていたものが、 今 はっきりと形に現れて、現実にある。



私のしていた覚悟なんて、こんなにも弱く、脆く崩れ去る。





あなたの存在が 大きすぎて。





あなたはいない。兄さまもいない。

私を温かく包んでくれた人は、もういない。





泣きながら、利勝さまの名を呼んだ。




(利勝さま!利勝さま!利勝さま!!! )




さびしいの。不安なの。

あなたがいないと、どうしていいかわからないの。

あなたのいない場所で生きていたくないの。





あなたのそばにいきたい。





あなたを追いかけて、もう一度 その手を握りたい。

あたたかで、大好きなあなたの手を。





「お願い!! 死なせて……!!」

「ゆきさま!お気をたしかにお持ち下さい!!」



私を抑えつけるまつが見えない。

声も届かない。


私の手は、いなくなった利勝さまのお姿を探して、必死に宙をもがく。



「利勝さまのもとへいきたいの!! お願いだから 死なせて!!」



ふっと 私を抑えていたまつの手が離れ、身体が解放された。



つぎの瞬間。



鋭い音とともに、頬に痛みが走った。




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