この空のした。〜君たちは確かに生きていた〜
頬の痛みに、我に返る。
利勝さましか映らなかった視界に、心配そうに見守るまつやおさきさん、弥平太さんの顔が映る。
そして、厳しい顔で私を見つめる、母さまのお姿。
いつのまにか まつを退かせて、母さまが私の目の前におられた。
訳がわからず、痛む頬に手を添え、母さまのお顔を見つめる。
(今、私をぶったのは、母さま………?)
母さまは厳しいお顔のまま、無言で手を振り上げると、もう一度 強く私の頬を打った。
「っ!! 」
さらに手を上げる母さまに、あわててまつが止めに入る。
「奥方さま!もうおやめください!!」
まつの言葉に、ようやく怒りに震える手を下ろすと、母さまは大きく息をついた。
初めて母さまに打たれた驚きと頬の痛みで、霞がかっていた頭がはっきりとしてくる。
打たれた頬を手で押さえ、呆然とする私に、母さまは厳しくおっしゃった。
「戦で大切な人を亡くしたのは、お前だけではないのです!
それをお前は、自分ばかりが悲しみに暮れて、他を一切 見ようとしない!
他の者が、お前と同じ悲しみを抱いていることに気づきもしない!
今 死ぬことは、お前が雄治どのと交わした約束も投げ出すことになるのですよ?
そんな中途半端なまま命を絶って、忠義に命を捧げた雄治どのにどう顔向けするつもりですか!?」
またぴしゃりと頬を打たれた気がして、目を瞠る。
「今度という今度は、お前をこのようなわがままな娘に育てた自分を恥じました!
忠節のために命を捧げようともせず、恋い慕うお方との約束のために生きたいと望んだお前が、その約束を果たさぬうちに、今度は死にたいなどと言う!
あまりにも情けなくて、この母が死にたいほどじゃ!!」
母さまの目から、悔し涙がほろほろと溢れだす。
それが私の心の靄を洗い流してゆく。
「お前の兄は死にたくて死んだか!? 戦地へ向かった方がたは!?
皆 家族を守るために、主君への忠義のために必死で戦い、死んでいったのです!!
その方がたに対して、己の身勝手が恥ずかしいと思わぬか!?」
怒りもあらわになじられて、頭を垂れるしかなかった。
涙の粒がはらはらと、音もなく落ちてゆく。
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