この空のした。〜君たちは確かに生きていた〜
気がつくと利勝さまのお姿も、いつのまにか草色の軍服に変わっている。
それは最後の挨拶を交わした時のお姿。
利勝さまが少し困ったように笑うのを、息を整えながら微笑で受け止める。
「……利勝さま。わかっておりましたよ。
約束を果たすために、会いにきて下さったのでしょう?」
利勝さまは 無言で頷く。
声を発しないことに違和感はなかった。
掟があるのでしょうと得心していた。
利勝さまはちゃんと、約束を守ってくれた。
私に会いにきてくれた。
それが とてもうれしい。
……きっともう、ゆかねばならないのでしょう。
それがわかっているのに、この手を離すことができない。
利勝さまも私の手を掴んだまま離そうとはしない。
――――離れたくない。
「……利勝さま。私も一緒に連れていって下さい」
あなたを 失いたくないの。
今 この手を離してしまったら、もう永遠に掴むことができない。
けれど利勝さまは、口を真一文字に結んで大きく頭を振った。
拒まれて目を伏せる。それでも離したくない。
けれどわがままを言って困らせたくない。
後ろにおられた白虎隊の皆さまが、空を見上げて頷き合う。
そしてひとり、またひとりと背を向けて駆け出してゆく。
彼らの身体はふわりと浮いて、彼方まで広がる青空に吸い込まれるように消えていった。
最後に残った兄さまが、促すように利勝さまの肩を叩く。
「……いってしまわれるのですね」
利勝さまはゆっくり頷いた。
もう会えない悲しみに、目頭が熱くなる。
利勝さまはつないだその手に力を込めると、まっすぐ私の目を見て口を開いた。
発せられた声は、音にならなかった。
けれど 確かに心に響いてくる。
『生きろ』。
(……利勝さま。あなたは私に、それを伝えようと……?)
未練を断ち切るように手を離したのは、利勝さまのほうだった。
利勝さまは最後に笑ったあと、兄さまに目配せして頷く。
そしておふたりは私に一礼すると、戦友達と同じ空へ向かう。
青空を駆けてゆくおふたりの背中を見上げながら、風が吹くのを感じた。
(……お日さまと草の匂い)
ああ 彼らは、この空の一部になるんだと、
この時 私は思った。
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