この空のした。〜君たちは確かに生きていた〜
 


気がつくと利勝さまのお姿も、いつのまにか草色の軍服に変わっている。



それは最後の挨拶を交わした時のお姿。



利勝さまが少し困ったように笑うのを、息を整えながら微笑で受け止める。



「……利勝さま。わかっておりましたよ。
約束を果たすために、会いにきて下さったのでしょう?」



利勝さまは 無言で頷く。



声を発しないことに違和感はなかった。
掟があるのでしょうと得心していた。





利勝さまはちゃんと、約束を守ってくれた。

私に会いにきてくれた。

それが とてもうれしい。





……きっともう、ゆかねばならないのでしょう。





それがわかっているのに、この手を離すことができない。

利勝さまも私の手を掴んだまま離そうとはしない。





――――離れたくない。





「……利勝さま。私も一緒に連れていって下さい」



あなたを 失いたくないの。

今 この手を離してしまったら、もう永遠に掴むことができない。





けれど利勝さまは、口を真一文字に結んで大きく(かぶり)を振った。



拒まれて目を伏せる。それでも離したくない。
けれどわがままを言って困らせたくない。








後ろにおられた白虎隊の皆さまが、空を見上げて頷き合う。

そしてひとり、またひとりと背を向けて駆け出してゆく。



彼らの身体はふわりと浮いて、彼方まで広がる青空に吸い込まれるように消えていった。





最後に残った兄さまが、促すように利勝さまの肩を叩く。



「……いってしまわれるのですね」



利勝さまはゆっくり頷いた。



もう会えない悲しみに、目頭が熱くなる。



利勝さまはつないだその手に力を込めると、まっすぐ私の目を見て口を開いた。






発せられた声は、音にならなかった。
けれど 確かに心に響いてくる。






『生きろ』。






(……利勝さま。あなたは私に、それを伝えようと……?)





未練を断ち切るように手を離したのは、利勝さまのほうだった。



利勝さまは最後に笑ったあと、兄さまに目配せして頷く。



そしておふたりは私に一礼すると、戦友達と同じ空へ向かう。



青空を駆けてゆくおふたりの背中を見上げながら、風が吹くのを感じた。





(……お日さまと草の匂い)





ああ 彼らは、この空の一部になるんだと、

この時 私は思った。





< 446 / 466 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop