この空のした。〜君たちは確かに生きていた〜
 


目が覚めると、辺りはまだ薄暗かった。

ぼんやりと宙を見つめる。





(…………夢)





やっぱり夢だった。



けれどそう思っても、落胆することはなかった。



だって私の手が、ぬくもりを覚えている。



利勝さまのぬくもり。



夢だったはずなのに、さっきまで握られていた証のようにあたたかい。





背を起こして、じっと手を見る。
そして 先程の夢を思い起こして、両手を胸に重ねる。


利勝さまのぬくもりを抱きしめる。





(………幸せだった)





鮮明に思い出すことができる。



思い切り走ったあとの、心地よい疲労感。

額に浮かんだ汗を冷やしてくれる、さわやかな風。



利勝さまは最後に、この喜びを私に教えて下さったのだわ。





…………利勝さま。



利勝さまは 笑っていた。

けして、おつらそうではなかった。



そのお姿を見れただけで、心が救われた気がした。







部屋の外で物音がする。

きっとまつが起きて、朝の支度を始めているんだわ。



布団を抜け出して、音のするほうへと向かう。



土間にはやっぱりまつがいて、朝食の支度を始めていた。



まつは林の家にいた頃も、誰よりも早く起きて仕事をしていた。





(かまど)でお米が炊ける、いい匂いがする。その匂いに引き寄せられるように、土間へと下りた。



「……ゆきさま!おはようございます!」



私に気づいて仕事の手を止めると、まつは驚いて笑顔を見せる。

その目は少し赤い。

ゆうべはまつも、兄さまを偲んで泣いていたのだろうか。



「おはよう……まつ」


「少しは眠れたでしょうか?今までは岩屋の中で、あまり休めなかったでございましょう?

もう少し横になっていて下さいな。朝食のご用意ができましたら、すぐお呼びいたしますから」



まつがそう言ってくれるのへ、首を横に振る。



「いいの、私も手伝う。だって 私は居候だもの。働かない訳にはいかないわ」

「ですが……」



まつは表情を曇らせて、心配そうに私を窺う。
私が無理をしていると感じたのだろう。





けれど無理なんかしていない。

自然と何かをしようという気持ちになれるの。



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