この空のした。〜君たちは確かに生きていた〜
「大丈夫よ。何かやらせて?」
そんなに心配しないで と、まつに微笑む。
何かをしていたほうが気が紛れるのかもしれないと捉えたのか、ためらいがちだったけど、まつも表情を和らげて頷いてくれた。
「でしたら……そこに先ほど畑から採ってきた青菜があります。鍋に湯を沸かしてありますから、それを茹でていただけますか」
「わかったわ」
私は笑って頷くと、井戸で手早く顔と手を洗い、早速もらえた仕事に取りかかる。
囲炉裏の自在鉤に吊された鍋の蓋を取り、湯気の立つその中に少しの塩と青菜を入れる。
菜箸で軽く鍋の中をかきまぜながら、まつに言った。
「まつ………ゆうべね。利勝さまが、私に会いにきて下さったの」
「えっ……!?」
まつは青ざめて驚愕した。
利勝さまの幽霊が来たのかと思ったのかしら。
その様子がなんだかおかしくて、ついクスリと笑いが漏れる。
「お見送りの時にね……私がお願いしたの。生きて帰ることができたら、会いにきて下さいって。
そしたらね、利勝さまがこうおっしゃったの。
『どんな姿になっても 会いにいく』って。
ゆうべ利勝さまは、夢に現れて下さった。
利勝さまは、私との約束をきちんと果たして下さったの……」
まつが手を止め、こちらを見つめる。
不安そうな表情は私を憐れんでいるのか、それとも利勝さま恋しさに、まだ死を望んでると思っているのか。
そんなまつの心配を取り払うつもりで笑いかけた。
「大丈夫よ、まつ。私ね……利勝さまに会えて、とてもうれしかったの。
利勝さまがきちんと約束を果たして下さったのだもの。
私も……ちゃんと約束を果たさなくちゃね」
利勝さまは最後に、幸せな気持ちを与えてくれた。
この手に あなたのぬくもりを遺してくれた。
大事なことを思い出させてくれた。
私も、あなたとの約束を果たしたい。
私の心に、新しい意志が宿る。
今度こそ 揺るがない。
それを伝えるために、強い目でまつを見つめる。
まつは気持ちを汲んでくれたのだろう。
視線を受け止めて、柔らかく目を細めた。
「……さようでございますか」
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