この空のした。〜君たちは確かに生きていた〜
 


「旦那さま……褒めてやって下さいな。あの子は立派に、自分の役目を果たしましたよ」



母さまはこぼれる涙を拭いもせずに微笑んだ。



主君と国に殉じ、立派に死んでくれた。

けして卑怯な真似はせず、家名に傷をつけることもなかった。



「ああ……ああ。あいつは自慢の伜だ。八十治はようやってくれた。よく家名を汚さずにいてくれた……」



母さまの言葉に何度も何度も頷きながら、お父上さまは口元に笑みを浮かべて泣いていた。


母さまも泣いていた。私も。まつも。


当時 この戦で身内を失うことは、喜ぶべき名誉であるとされていた。

だからお父上さまも母さまも、どんな思いで泣いていたのか
わからない。



悲しんでおられるのか。喜んでおられるのか。
それとも家名を汚さなかったことに安堵したのか。



私は喜べなかった。ただただ 悲しかった。



利勝さまを失った悲しみ。兄さまを失った悲しみ。



もうあの優しさに触れることはできないのだと、大好きだったあの笑顔を見られないのだと、目の前の現実を突きつけられるたび、心が折れて泣いていた。





戦争にいったい、どんな意味があるの?





敗れてしまった側には、恐ろしさと失った悲しみと、屈辱しか残らない。



戦争は、ただ力でねじ伏せるだけ。



そこにどんな意義があったとしても、たくさんの人が死に、家が焼かれ、そこから恨みや悲しみが生まれることに変わりはない。




終わってみれば、虚しい。




……けれど、兄さまはおっしゃった。


自分は『正義』のために戦うと。


平穏な生活を脅かす者達から、大切なものを守るために。


主君に忠誠を尽くし、武士の意地と誇りを示すために。






……そうね。きっと意味があったのでしょう。


ただ私が、まだ子供で女子だから。だから 知らないだけ。


いつか私にもわかるかしら?


なぜ、こんな戦争を始めなければならなかったのか。


自分の心を納得させられる日が来るかしら……?








「そのうち我々にも、何らかの沙汰が下るだろう。もうしばらくは、まつの家に置かせてもらいなさい」



「達者でおるのだぞ」 と、お父上さまは淋しく笑い、猪苗代へ向かう会津兵の列へと戻ってゆかれました。



再び家族で暮らせる日が来るといい。

そう願わずにはいられませんでした。





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