この空のした。〜君たちは確かに生きていた〜
さき子さまが着ている絽の小袖は、すかすかになって擦り切れている。
着の身着のままお城に入り、着替えも何もない籠城生活で精一杯立ち働き、すっかりくたびれてしまったその身なりは、どれだけ苛酷を強いられてきたかを物語っていた。
八月ならまだしも九月の夜は、夏用の絽の袷ではさぞかし寒かったでしょうに……。
しばし言葉を失う私に、さき子さまはふっと笑った。
「すごい格好ね!名前のとおり雪のように白かったお肌が台無し!」
村娘に扮した粗末な着物姿に、つけた泥が乾き土色になった顔の私を、しげしげと見つめながらさき子さまは苦笑する。
「さき子さまこそ」
「お互いさまね」
その笑顔につられて、私の頬も少し緩んだ。
けれどもくら子さまに歩み寄られると、その頬も引き締まる。
「ご無事で何よりでしたね」
くら子さまは安堵して微笑む。
後ろには風呂敷で包んだ行李を背負い、両手に荷物を携えた下男の末吉さんもいた。
私は深くお辞儀をしてから「ありがとうございます」と返して、早速切り出した。
「くら子さま。私がここに足を運んだのは、くら子さまとさき子さまにお会いするためでございます」
おふたりは不思議そうに目を丸くする。
「それはどうして?」と訊ねるさき子さまに、私はまつから受け取った風呂敷の包みを見せた。
「これをくら子さまにお渡しすることを、利勝さまから言付かっておりましたので」
言ってしまってから、その名を口にしたことを少し後悔した。
けれど私が「利勝さま」とお呼びすることは、おふたりもご存知だったから、あえて気にしないことにする。
「雄治の……?」
おふたりは色を失い目を瞠る。
その視線から目をそらしたい気持ちを、叱咤しながら頷くと続けた。
「はい。利勝さまは出陣のおりに、うちにも立ち寄って下さりました。
その時 おっしゃられていたのです。自分はお母上さまに、形見になるものを何も渡してこれなかったと。
ですからこれを、利勝さまから預かって参りました」
風呂敷に包んだまま、それをくら子さまにお渡しする。
くら子さまは震える手でそれを受け取ると、ゆっくりと結びを解いた。
利勝さまの血に染みた小刀が、悲しくその姿を現す。
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