この空のした。〜君たちは確かに生きていた〜
平素から武士は 小刀をつねに身から離さず、外したとしても、いつでも手を伸ばせば届くところに置いている。
それが 今 ここにあるということは、腰に差すべき主人を失ったということ。
それが解るから、おふたりも黙って固くまぶたを閉じた。
くら子さまは薄くまぶたを開くと、静かに私に問いかける。
「あなたは、どこでこれを……?」
「弁天山の 中腹です」
私は、味方の苦戦に白虎士中二番隊が、急遽 戸ノ口原へ援軍に向かったと聞いたこと、
そこから退却した利勝さま達が、弁天山でご自害なされたこと、
利勝さまのご遺体は、他の皆さまとともにまつの家族が懇ろに弔ってくれたことを、おふたりにお伝えした。
「私の兄も一緒でした。私は山近くの村に身を寄せていたので、幸い利勝さまにお会いすることができたのです。小刀はそのおりにいただいて参りました」
そして私はさらに、出陣前に利勝さまと交わした約束をおふたりに明かした。
「だから私は、情けなくもこうして生き延びて参りました。
利勝さまとの約束を果たすために」
そう締め括って、大きく息を吐く。
毅然としていたかったけど、最後のあたりは涙声になっていた。
少しの沈黙のあと。
「……そう。あの子は……雄治は、自分の役目をきちんと果たしたのね」
「よかった」と、くら子さまはつぶやかれた。
雄介さまと利勝さま。
くら子さまはこの戦で、ご子息おふたりを亡くされた。
どう声をかけていいものか迷っていると、くら子さまはじっと私を見つめ、そして ふっと笑う。
「……それにしても、雄治はとんでもないことをあなたに頼んだものね」
さき子さまも大仰に頷いた。
「まったくだわ。おゆきちゃんもよくそんな約束を果たそうとしたわね」
それを聞いた私は目をぱちくりする。
「……それは!利勝さまがお母上さまに形見を渡せなかったと、ひどくお困りのようでしたので……!」
「それなんだけどね」
うろたえながら私が言うと、さき子さまが口を挟んだ。
「形見ならあの子、家を出る時にちゃあんと置いていったわよ」
出陣の日。
利勝さまは急ぎ支度をして、慌ただしく くら子さまの前で別れの挨拶を述べたとき、「私の遺髪です」と、無造作に髪を切って置いていったという。
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