この空のした。〜君たちは確かに生きていた〜
くら子さまは胸元から丁寧に折り畳んだ懐紙を取り出してそれを開き、利勝さまの遺髪を見せて下さった。
私は驚きと困惑を隠せない。
(ならば利勝さまは、どうしてあんな約束を……?)
なぜ私に、あんなつらいことをさせたの?
くら子さまの動作に思い出して、ずっと懐にしまい込んでいた手拭いを取り出し、それを見つめる。
くら子さまとさき子さまも、それを見ているのを気づかずに。
「……それは、雄治が持っていた……?」
くら子さまに言われて、これも遺品として渡さなくてはならなかったものだと、今更ながらに気づく。
「あっ……もっ申し訳ございません!決して掠め取ろうと思った訳ではないのです!
約束を果たせるよう、お守りとして懐に抱いていたものですから、お渡しするのをつい忘れてしまって……!」
うろたえながら手拭いを突き出して謝ると、くら子さまはやんわりと制するように、私の手を握ってくれた。
「いいのよ。それはあなたが持っていてちょうだい」
「そうよ。そもそも、おゆきちゃんがあの子にあげたものじゃない」
おふたりは、そうおっしゃってくれる。
「……ありがとうございます……!」
深々と頭を下げておふたりにお礼を述べると、嬉しさと感謝で目を潤ませながら、利勝さまの手拭いを再び胸に抱き寄せた。
喜びを噛みしめて顔をあげると、おふたりは目を細めて微笑んでくれている。
「おゆきさんはあの子を……、雄治を好いていてくれたの?」
その優しい眼差しと問いかけは、想いを悟られた気恥ずかしさを包み込んでくれるような響きがあって。
私は心を乱すことなく、素直にコクンと頷くことができた。
「そう」と、くら子さまはいっそう目を細めてうれしそうに笑う。
「……私の一方的な片恋なのです。けれど利勝さまは、想い続けることを許して下さりました」
優しいから。
素っ気ないし、すぐ怒るけど、放っておけぬと情をかけてくれる人だから。
けれどおふたりは、なぜか声を漏らして笑うの。
「本当にそうかしら?だったらあの子は、どうしてあなたに願いを託したの?」
「願い……」
それは、お母上さまに形見を渡すことではなかった。
じゃあ、利勝さまの本当の願いとはいったい………?
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