この空のした。〜君たちは確かに生きていた〜
またまた困惑する私に、くら子さまは柔らかい微笑を絶やさないままおっしゃった。
「おゆきさんは、雄治との約束がなければ、どうしていたかしら」
そう訊ねられ、目を瞠る。
約束がなければ。なければ、とうに私は。
「自害して、果てておりました……」
くら子さまは「そうでしょう」とばかりに大きく頷く。
「あの子があなたにそんな約束をさせたのは、あなたにこの戦禍に負けず、生き抜いてほしかったからじゃないのかしら。
あの子はただ、あなたの命を守りたかっただけなのよ」
『生きろ』。
夢の中で、利勝さまがおっしゃった言葉。
それが 今、声音をともなって、はっきりと蘇る。
『俺の願いを叶えるために、生きてくれ』。
――――利勝さまの願い。
それは、ともに生きてゆくことができないご自身の分まで、私に生きて欲しいということ……?
今まで堪えていた、堰が切れる。
涙が溢れだす。
―――ああほら。ほら やっぱり。
いつだって私は、相手の真意に気づかない。
利勝さまの本当のお気持ちに気づけない。
大声をあげて泣いた。泣き崩れた。
そんな私を見守るようにそばにいてくれたまつが横に寄り添い、背中をさすりながら立ち上がらせてくれる。
「……私は!私は、死ぬつもりでした!! 約束を果たしたなら、利勝さまの後を追うことを許してもらえると思って……!!」
手拭いを握りしめながら、嗚咽に紛れてそう漏らす私に、おふたりは言葉を挟むこともなく、ただ哀しい微笑みで見守ってくれました。
そうしてしばらく泣き続けた私の涙が漸くおさまってくると、さき子さまが静かに口を開いた。
「……雄治は最期まで、その手拭いを持っていたのね」
胸に握りしめた手拭いに目を落とす。
色褪せて、くたびれて、利勝さまの血で黒ずんだ手拭い。
「あのね、雄治はいつもその手拭いを使っていたわよ。おかげで綺麗な藍色も、すっかり褪せちゃって。
私なら大切なものは箪笥の中に大事にしまっておくのに、あの子はいつも懐に入れて離したくなかったのね」
さき子さまのお顔を見つめる。
そのお顔は苦笑で緩んでいた。
「雄治はね、おゆきちゃんのことが好きだったのよ。たぶん、ずっと以前から」
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