この空のした。〜君たちは確かに生きていた〜
「強く生きてゆきましょう」
私の涙を拭いながら、くら子さまは優しくおっしゃる。
「生き残った者にはそれなりの使命があるの。たとえ今はつらくとも、生きていてよかったと思える日がきっと来るわ。おゆきさん、あなたにも」
この先の未来をまっすぐに見据えるようなくら子さまの眼差しは、利勝さまのそれと、とても良く似ている。
まるで利勝さまが降りてきて、くら子さまとお言葉を重ねているよう。
「あの子が守ろうとした命、大切にしてね」
最後にそう言葉を残して、おふたりは歩き出す。
新しい一歩を。力強い足取りで。
その背中を見送ってから、私は空を見上げた。
秋から冬へと移行してゆくこの空は、その懐の深さを示すように、どこまでも手を広げ、高く青く澄み渡る。
その吸い込まれていきそうな深い青の彼方に、利勝さまや兄さま達がいる。
どんなに手を伸ばしても、そこへ届くことは叶わないけれど。
けれどもほら、いつでも空を見上げれば、あなたの笑顔が見えてきそうな気がするの。
大好きな 利勝さまの笑顔が。
「……利勝さま。ありがとうございます……」
私から、私の命を守ってくれて。
現し身は消えても、それでもなお、あなたは 私を導いてくれる。
『生きろ』と。
「……もう自分から命を絶つことはしません。この命尽きるまで、必ず生き続けると約束しますから。
だからその約束が果たせたら、今度こそ私をおそばに置いて下さいね……?」
返事など、あるわけがない。
けれど、そこに吹いてきた一陣の風に、私はハッとさせられた。
―――お日さまと草の匂い。
今は秋なのに。
まるで初夏の緑の碧さを思い起こさせるような―――。
「……利勝さま?」
つぶやく私の頬に、一筋の涙がまた落ちる。
それを拭うかのように、同じ風が優しく頬を撫ぜてゆく。
「行こう。まつ」
ぐいと涙のあとを拭って、私は歩き出した。
これから先も、会津の人達にとっては、つらい道になるでしょう。
それでも 負けない。
これから迎える冬も、やがては春に変わるから。
あなたがつなげてくれた命を、精一杯 生き抜くから。
だから。きっと強く 生きてゆく。
あなたのいる空を見上げながら、私は強く 心に誓った。
《完》
.