この空のした。〜君たちは確かに生きていた〜
あの日 私を助けてくれた人がいたことを、初めて耳にした母さまはひどく驚かれて、
「まあ……!聞いてないわ?お前を助けて下さった方がいたなんて!なら 母親の私も、一緒にお礼に伺わないと!」
そうおっしゃって腰を浮かせかけたので、私はあわてた。
「いえ!どこの誰とも知れぬお方ですから……!
だからもう一度お会いして、きちんと知りたいのです」
利勝さまのことを。
「会うってどうやって?その方のことを、お前は何も知らないのでしょう?」
「はい、ですが……。この前と同じ場所へ行けば、また会えると思うんです」
母さまは怪訝そうに眉根を寄せながら、さらに尋ねる。
「その方は、どのようなお方だったの?」
「兄さまと同じ、日新館の学生でした」
「あら、じゃあ、八十治さんに聞いてから、その方のお宅までお礼に伺えばいいじゃない」
そう提案されて、私は頭を振った。
「兄さまとそのお方のあいだでは、もう終わったことになっているんです。ですから、私にももうお礼は必要ないと」
「まあ……」
「ですが、私はどうしても、もう一度 お会いしたいのです。
母さま、どうか私を行かせて下さい!」
せっかくもらえた機会を、ここで失いたくない。
私の目的を知って母さまは、兄さまに聞かずに探すのは雲を掴むような話だと、さらに困惑の色を見せておられたけれど、私の頑なな態度と思い詰めたまなざしに、やがて呆れたようにため息をつかれた。
「なら私は、八十治さんが戻ったら、何と言えばいいの?お前が恩人探しに出かけたなどと知ったら……」
「兄さまには、戻ってから私がきちんと話します。
ですから母さまは、兄さまには何も言わないで?」
両手を顔の前で合わせ、上目使いに見上げる。
母さまは困ったように、もう一度深くため息をつかれた。
「……わかったわ。なら、十分に気をつけて行くのよ?」
「ありがとうございます!!」
私は母さまに深くお辞儀をすると、喜び勇んで玄関に向かい、置いてあった適当な下駄に足を引っ掛けて外へ飛び出した。
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