この空のした。〜君たちは確かに生きていた〜
「私……こんな足だから、ほとんど外に出たことがないんです。
それなのに、ひとりで出かけて迷子になって。
考えなしでした……」
すっかりしょげ返る私に、ご婦人はとりなすように声を明るくした。
「あら、ごめんなさい!気を悪くしないで?
悪い意味で申しているのではないの。
ただ、傷が膿んでしまうと足が腐ってしまうわ。
大事にしないとダメよ」
ご婦人は励ますように、優しく笑ってくれる。
私はその笑顔を見つめた。
はきはきとして勢いのある人だけど、けして子供の私を見下したり軽んじてる訳ではない。
ぱっちりした瞳は、あの女の子に瓜ふたつ。
その目を細めて、やさしく見守ってくれる。
「あの……気にかけてくださって本当にありがとうございます。
私は御用所役人を勤めております、林忠蔵の娘でゆきと申します。
あらためてお礼に伺いたいと存じますので、お名前をお聞かせ下さいませんか?」
私の言葉に、ご婦人は目を丸くする。
「林忠蔵さまとは、以前日新館で講師をしておられた……?」
「父をご存知なのですか?」
驚いた私の言葉に、まあ!とご婦人は顔をほころばせた。
「私の息子達もね、日新館に通っているのよ。
上の子はまだ入学して間もないころ、林さまにお世話になったんじゃなかったかしら。
下の息子はね、この年に入学したの」
嬉しそうな表情でご子息のことを語ったあと、ご婦人は名乗って下さった。
「私の名はくら子。永瀬くら子よ。さっきの子は私の娘でさき子というの」
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