この空のした。〜君たちは確かに生きていた〜
 


くら子さまにさき子さま。

助けてくれた恩人の名前を、何度も繰り返しつぶやき深く胸に刻みつける。



「……あの、私の兄も今年日新館に入学したんです」



あら、とくら子さまは思い出したように、頷いておっしゃった。



「今年入学した、林さまのご子息ね。その方って、八十治どののことでしょう?」


「そうです!兄もご存じなんですか?」



ふいに出た兄さまの名前に、またまた私は驚く。


くら子さまは得心がいったらしく、満面の笑顔を見せておっしゃった。



「八十治どのは何度か屋敷に遊びにいらしてるのよ。
うちの雄治(ゆうじ)と仲良くしてくれてね。

そうなの、あなた、八十治どのの妹さんなのね」


「そうだったんですか……」



兄さまの名前が出ると、とたんに安心感が沸いてきて肩の力が抜け落ちた。





得心(とくしん)……十分に承知すること。納得すること。


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