この空のした。〜君たちは確かに生きていた〜
幸運とは思いながらも、なぜか心は虚しい。
お礼を言うことができて、もう終わってしまったから?
待ち侘びていた時が過ぎてしまったあとの寂しさにも似たような、
思い詰めていた思いが、支えを無くしてどうしたらいいかわからない。
それは、思いがけない事実を知ってしまったから。
「なら明日、あらためてお礼に伺いましょう。借りた履物も返さないといけないし。
今度は私もきちんと同行しますからね?」
そんな私の複雑な心境に気づくことなく、母さまははりきって、そうおっしゃる。
「あの……母さま。伺うのなら昼前に参りませんか?」
「あら、どうして?私もお前のいう『利勝さま』にお会いしたいわ。だって八十治さんのお友達なんでしょう?」
「はい……ですが」
もう突然、姿を現すことはしないって、お約束したから。
それなのにまた私が、利勝さまのお屋敷にお邪魔しているところを見られたら。
今度こそ私は、利勝さまに嫌われてしまう……。
「……私は、利勝さまに迷惑がられているんです。
もうお礼も済んだから、私が会いに行く理由もないのだし」
私は無理に笑ってみせた。
母さまはまつと顔を見合わせる。
それから私を慰めるように、やさしくおっしゃった。
「……わかったわ。お前の好きになさい」
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