長靴をはいた侍女
実は、このロニという侍女は、魔女ではないのだろうか。
そんな馬鹿げた話を、頭によぎらせてしまったのだ。余りに現実感のない話すぎて、すぐに頭から蹴り出したが。
「何故、主人のお相手の方が、私によくして下さるのか、最初の頃は分かりませんでした」
手を伸ばして、愛しげに靴を撫でる横顔。
「でも、だんだん分かって来た気がします……『雨』のせいなんです」
窓の外は、まだ雨が降り続いている。
帰りの彼女は、きっとまた顔をびしょ濡れにするのだろう。
「雨の日って憂鬱でしょう? 外にも出にくいし、暗くて気分も重くなるし……そんな日に、明るい女性の手紙が届く……少し嬉しくなりません?」
窓ではなく、ぱっとこっちに顔を向け、彼女は晴れやかな笑顔を浮かべる。
「……」
同意を求められても困る。
いや、まてよ。
ファウスは、つい真面目に彼女の言葉について考えこもうとした。
「同意を求められても困りますよね……はは。でも、そんな憂鬱な日に、必ず自分宛ての華やかな手紙が届くと分かっていたら……雨の日が、きっと少し好きになるんだと思うんです」
彼の思考を軽く切り、ロニは白い首を傾げて楽しそうに語るのだ。
「その気持ちが、どんどん強くなっていったら、最後には……男の方にとって雨の日は、私の主人と同じ意味になるんです」
一息つき。
「それって、すごく素敵なことだと思いませんか? 雨の日に私の主人の名前がつくんですよ……そして、次にいつその日が来るかなんて、誰にも分からないんです」
彼女の唇は、小鳥のさえずりのように早く高く言葉を奏でた。
ファウスには理解出来ない部分も多いが、何となくは理解出来た気がする。
雨(プリュイ)=女性(ファム)。
この単純な刷り込みを、彼の主人に対してしているということだ。
それを愛と呼ぶかどうかは別として、これまで彼女は何人もの主人を渡り歩きながら成功させてきたのだろう。
そう考えると、人とはいかに単純な生き物であるか分かる。己の主もまた、それにまんまと乗せられているのだから。
そんな馬鹿げた話を、頭によぎらせてしまったのだ。余りに現実感のない話すぎて、すぐに頭から蹴り出したが。
「何故、主人のお相手の方が、私によくして下さるのか、最初の頃は分かりませんでした」
手を伸ばして、愛しげに靴を撫でる横顔。
「でも、だんだん分かって来た気がします……『雨』のせいなんです」
窓の外は、まだ雨が降り続いている。
帰りの彼女は、きっとまた顔をびしょ濡れにするのだろう。
「雨の日って憂鬱でしょう? 外にも出にくいし、暗くて気分も重くなるし……そんな日に、明るい女性の手紙が届く……少し嬉しくなりません?」
窓ではなく、ぱっとこっちに顔を向け、彼女は晴れやかな笑顔を浮かべる。
「……」
同意を求められても困る。
いや、まてよ。
ファウスは、つい真面目に彼女の言葉について考えこもうとした。
「同意を求められても困りますよね……はは。でも、そんな憂鬱な日に、必ず自分宛ての華やかな手紙が届くと分かっていたら……雨の日が、きっと少し好きになるんだと思うんです」
彼の思考を軽く切り、ロニは白い首を傾げて楽しそうに語るのだ。
「その気持ちが、どんどん強くなっていったら、最後には……男の方にとって雨の日は、私の主人と同じ意味になるんです」
一息つき。
「それって、すごく素敵なことだと思いませんか? 雨の日に私の主人の名前がつくんですよ……そして、次にいつその日が来るかなんて、誰にも分からないんです」
彼女の唇は、小鳥のさえずりのように早く高く言葉を奏でた。
ファウスには理解出来ない部分も多いが、何となくは理解出来た気がする。
雨(プリュイ)=女性(ファム)。
この単純な刷り込みを、彼の主人に対してしているということだ。
それを愛と呼ぶかどうかは別として、これまで彼女は何人もの主人を渡り歩きながら成功させてきたのだろう。
そう考えると、人とはいかに単純な生き物であるか分かる。己の主もまた、それにまんまと乗せられているのだから。