長靴をはいた侍女
※
長靴をしっかりと履く。
手紙を、鞄に入れる。
手紙は、一通だけ。
ロニから、伯爵家の執事頭であるファウスに宛てたもの。
この配達は、子爵令嬢のためではない。
ただ、自分のためだけの、初めての手紙の配達だった。
レインコートに手をかけた時、扉がノックされた。
「ロニ……いる?」
侍女仲間が、おそるおそる声をかけてくる。
しまった。
握ったレインコートを離せないまま、彼女は固まった。
確かにロニは、もうすぐ次の屋敷へと行くが、今はまだこの子爵家の雇われ人なのである。何の用事も言い付かっていないのに、勝手に屋敷の外に行くことは出来ない。
こんな姿を見られたら、きっとどこへ行くのかと問われるだろう。
「ロニ?……あっ!?」
返事が出来ないでいる彼女に、もう一度怪訝な呼び声がぶつけられようとした時。
変な悲鳴と共に、扉は強引に開かれたのだ。
その光景を、ロニは言葉を失ったまま見ていた。
ぽたぽたと髪や顎から水滴を滴らせ、青い顔で一歩踏み込んできた男が、そこにはいたからだ。
いつもきっちりと、整髪料で撫で付けられているはずの髪は、雨のせいで見るも無残な様子で、ジャケットも水を吸ってずっしりと重そうだった。ズボンには、いくつもの泥が跳ねているし、革靴はもはや悲劇的な有様だ。
だが。
そこにいるのは、間違いなく伯爵家の執事頭のファウスだった。
彼は、中で驚いたまま固まっているロニの姿を、厳しい表情のまま一度、上から下まで見つめて、こう言った。
長靴をしっかりと履く。
手紙を、鞄に入れる。
手紙は、一通だけ。
ロニから、伯爵家の執事頭であるファウスに宛てたもの。
この配達は、子爵令嬢のためではない。
ただ、自分のためだけの、初めての手紙の配達だった。
レインコートに手をかけた時、扉がノックされた。
「ロニ……いる?」
侍女仲間が、おそるおそる声をかけてくる。
しまった。
握ったレインコートを離せないまま、彼女は固まった。
確かにロニは、もうすぐ次の屋敷へと行くが、今はまだこの子爵家の雇われ人なのである。何の用事も言い付かっていないのに、勝手に屋敷の外に行くことは出来ない。
こんな姿を見られたら、きっとどこへ行くのかと問われるだろう。
「ロニ?……あっ!?」
返事が出来ないでいる彼女に、もう一度怪訝な呼び声がぶつけられようとした時。
変な悲鳴と共に、扉は強引に開かれたのだ。
その光景を、ロニは言葉を失ったまま見ていた。
ぽたぽたと髪や顎から水滴を滴らせ、青い顔で一歩踏み込んできた男が、そこにはいたからだ。
いつもきっちりと、整髪料で撫で付けられているはずの髪は、雨のせいで見るも無残な様子で、ジャケットも水を吸ってずっしりと重そうだった。ズボンには、いくつもの泥が跳ねているし、革靴はもはや悲劇的な有様だ。
だが。
そこにいるのは、間違いなく伯爵家の執事頭のファウスだった。
彼は、中で驚いたまま固まっているロニの姿を、厳しい表情のまま一度、上から下まで見つめて、こう言った。