長靴をはいた侍女

「ロニ・アイフォルカ嬢に、正式に求婚したく思っております」

　自分をこんな風にしたのは、目の前のロニ、なのだと。

　ファウスは、千々に乱れた心を振り絞り、声にその気持ちを乗せた。

　彼女は手紙を手に持ち、こちらを見た後──少しぼんやりした声で、こう言った。

「執事頭様は……独身でいらっしゃったのですね」

　そこからか。

　ファウスは、がっくりと肩を落したくなった。

　しかし、彼女がそれを知らなかったのは、やむを得ないことだろう。ロニは、身の上話を少ししたので、独身だろうと彼にも想像がついたが、ファウスは彼女に自分の話をほとんどしたことがなかったのだ。

「そうだ」

　こんな馬鹿馬鹿しい確認を、今更されるとは思っていなかったが、彼は眉間を押さえながらも肯定した。

「私、つまらない普通の話しか、出来ないと思います……」

　カサと、彼女の手の中の紙が鳴る。

「知っている」

「あ、でも……雨の話なら、少しは出来ます」

　あっさりと流されたと思ったのか、慌ててロニは自分をフォローする言葉を付け足した。

「それも知っている」

　ファウスは、深くため息をついた。

　ロニが、よく分からない言葉を並べている間、彼は着々と焦らされ続けているのだ。

「あと、ええと……」

　なのに、彼女はそれをまったく分かっていないまま、別の言葉を探し当てようとする。

「悪いが、返事が『はい』でないのなら、今すぐ帰れと言ってくれ。断りの言葉を長々聞けるほど、私の神経は図太くはない」

　だから、ファウスは彼女の無駄な言葉を止めるべく、彼女に答えを要求した。

　まずは、結論が欲しいのだ。

　答えが『はい』であるというのならば、その後の無駄な言葉はいくらでも聞いてやる──それが彼の本音だった。