長靴をはいた侍女
due
ロニが、最初に仕えた女性は、騎士の娘だった。
さかのぼれば、当主は男爵の息子であり、貴族とまったく無縁というわけではない。だが、当主の息子たちは、誰一人と騎士になる道を選ばず、金を稼ぐ道に走ってしまったのだ。
その家には、娘は一人だけだった。
遅く出来た末の娘。
騎士は、良い血筋の相手と婚姻させようと、躍起になって娘を社交界に送り出した。もし、このまま彼が老いて亡くなれば、娘の行く末は寂しいものになると考えたのだろう。
だが、見た目が平凡なせいもあってか、なかなかよい縁談にめぐり合うことはなかった。
そんな時、彼女はある男に恋をした。
舞踏会で出会った、子爵の子息だ。
上には上の目論見があるように、下には下の目論見があるもので、次期子爵という立場とは言え、同等以下の女性からは引く手あまただ。
他の女性を押しのけてまで、前に出るような性質ではなかったこともあいまって、彼女はそのまま顔も覚えられずに恋を終えるはずだった。
だが、誰かが彼女に言ったのだ。
『手紙をお送りしてはいかがでしょうか』
気の利いた言葉を、その場でするすると出せないのならば、ゆっくりとした時間の中で、思いのたけを綴る案は、その女性にはぴったりだったのだ。
1枚目を書く時は、何度も何度も書き直しをし、次の日に破いてはまた書いてを何日も繰り返していた。
そして、彼女がようやく手紙を書き上げた時。
出来上がった喜びの心とは裏腹に、外はひどい雨だったのだ。
これでは、手紙を今日は届けられそうにない。
せっかく書いたのにと、騎士の娘はため息をついてあきらめようとした。
そんな中。
『私なら、雨の中でも届けに行けます』
そう言った、侍女がいた。
騎士の娘の侍女である。
節約のために安く雇える、平民の少女だった。
はしっこい娘で、ちょっとしたお遣いを任せても、人より速くこなせるので重宝されていた。
もともと都の生まれのおかげで、町の端から端まで知っているところも頼もしい。
さかのぼれば、当主は男爵の息子であり、貴族とまったく無縁というわけではない。だが、当主の息子たちは、誰一人と騎士になる道を選ばず、金を稼ぐ道に走ってしまったのだ。
その家には、娘は一人だけだった。
遅く出来た末の娘。
騎士は、良い血筋の相手と婚姻させようと、躍起になって娘を社交界に送り出した。もし、このまま彼が老いて亡くなれば、娘の行く末は寂しいものになると考えたのだろう。
だが、見た目が平凡なせいもあってか、なかなかよい縁談にめぐり合うことはなかった。
そんな時、彼女はある男に恋をした。
舞踏会で出会った、子爵の子息だ。
上には上の目論見があるように、下には下の目論見があるもので、次期子爵という立場とは言え、同等以下の女性からは引く手あまただ。
他の女性を押しのけてまで、前に出るような性質ではなかったこともあいまって、彼女はそのまま顔も覚えられずに恋を終えるはずだった。
だが、誰かが彼女に言ったのだ。
『手紙をお送りしてはいかがでしょうか』
気の利いた言葉を、その場でするすると出せないのならば、ゆっくりとした時間の中で、思いのたけを綴る案は、その女性にはぴったりだったのだ。
1枚目を書く時は、何度も何度も書き直しをし、次の日に破いてはまた書いてを何日も繰り返していた。
そして、彼女がようやく手紙を書き上げた時。
出来上がった喜びの心とは裏腹に、外はひどい雨だったのだ。
これでは、手紙を今日は届けられそうにない。
せっかく書いたのにと、騎士の娘はため息をついてあきらめようとした。
そんな中。
『私なら、雨の中でも届けに行けます』
そう言った、侍女がいた。
騎士の娘の侍女である。
節約のために安く雇える、平民の少女だった。
はしっこい娘で、ちょっとしたお遣いを任せても、人より速くこなせるので重宝されていた。
もともと都の生まれのおかげで、町の端から端まで知っているところも頼もしい。