ぬくもりをもう一度
川尻の手から逃げようと、

香澄が俺のいる方へするりと抜ける。


怯えている香澄をかばうように、

俺はそうっと香澄の肩を抱きしめる。


そこから伝わる小刻みな振動が、

今の香澄の全てを物語っている。


このままでは、香澄が危ない。


けれど、この状態の中で

俺がむやみに割って入ることは出来ない。


俺は、川尻の様子を伺うように

じっと視線を向け続けた。


「そんな……、

 それだって智くんの

 一方的なものじゃない。

 もう、私は智くんとは

 一緒にいられないの。

 それに、

 なんで智くんがここにいるの。

 もしかして、

 ―――私のことをつけてきたの?」






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