ぬくもりをもう一度
俺がどんなに頑張って

彼女を驚かせようとしても、

彼女はいつも俺の先をいってしまう。


それは学生の頃と

全く変わっていないらしい。


九段下駅に続く階段のすぐ横に、

香澄がふわり微笑んで立っていた。


「お疲れ様」


優しい声でそんなこと言われると、

一瞬にしてそれまで

肩に圧し掛かっていた重荷が

すうっと軽くなる。


俺もまた微笑んだまま、小さく笑った。


「俺の方が早いと思ったんだけどな」


「残念。

 私、待ち切れなくて

 1時間も前に来てコーヒー飲んでたもの。

 でも、学生の頃に比べたら、

 とっても早いと思ったよ」


イタズラな笑みを見せて言う香澄を、

思わず小突く。





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