先輩とあたし。
小説みたいなリップ音はなかったけど、言葉で表すならきっとこの言葉だと思う。
「それじゃあ」
そう言って真鍋先輩はあたしに背を向けて去ってしまった。
あたしは数秒かたまって、ハッと我にかえって真鍋先輩と反対方向の、もと来た道を歩き始めた。
ちゅー、しちゃった。
あたしは口元を手で覆いながら、さっきの真鍋先輩の顔が近づいてくる瞬間が頭の中で繰り返し思い出していた。
途端に顔があつくなった。
きっと真っ赤だと思う。
今が夜でよかった。
この真っ赤な顔を誰にも見られずにすむから。
そして泣いているあたしを見られずにすむから。
ツーっと頬を伝う涙。