青空バスケ―番外編―
一人で心の中で安心していると……陽斗のスピーチが終盤に差し掛かっていた。
「……そして、私は二人の幸せを心から願っています。
結婚、おめでとう」
何もミスをすることなく、陽斗は無事にスピーチを終えた。
会場も拍手で包まれた。
……けど、当然アイツがこのまま終わるわけなかった。
陽斗がスピーチを終え、こっちに戻ってこようとした……その時だった。
ガタッ!という大きな音がしたと思いきや……一番前に座っていたイツが立ち上がった。
「イッ君……?」
「あのバカ、何やってんのよ……」
不思議そうにイツを見る伊沢と、呆れたような声を出す篠山。
本当に何しでかすつもりなんだよ……。
イツはゆっくり立ち上がると陽斗の方へ近寄って……
「ハルー!!!」
陽斗に勢いよく飛び付いた。
「うおっ……!」
「ハルが俺達のことをそんな風に思っててくれたなんてー!!
俺は嬉しいよ!!」
「分かっ……分かったから……離れろって……」
「俺もハルの幸せを願ってるよ!!」
「ちょっ……苦しっ……!!」
突然のイツの行動にざわつく会場。
大爆笑の松山。
ポカンとする俺達三人……。
イツは離すどころか、更に強く陽斗を抱きしめた。
「ハルー!!!」
「イツっ……本気で苦しいって……!」
……その時。
何とかイツから離れようともがいてる陽斗と……ばっちり目が合った。
……マズい。
「侑哉!!
ちょっ……本気で助けてっ……!!」
……だと思った。
マジかよ……この状況で?
気づくと、会場にいた全員が俺の方を見ていた。
「いけー!侑ちゃん!!」
「松山!?」
松山が俺に向かって叫ぶ。
アイツ……楽しんでる場合じゃないだろ、普通に考えて!
「風見君、行っておいでよ」
「え?」
「このままじゃ、大崎がもっと暴走するわよ」
「暴走って……」
……はぁ。
仕方ねぇな……。
俺はため息をつきながら立ち上がって、暴走してるイツと巻き込まれてる陽斗のところへ向かった。
「バカ、お前は何してんだよ」
パシン!とイツの頭を叩く。
「侑ちゃん!
はっ!そうか、侑ちゃんも仲間に入れてほしいんだね!」
「は!?
ちょっ……イツ!!」
陽斗と一緒に、なぜか俺まで巻き込まれる。
もうこうなったイツは誰にも止められない。
せっかくの披露宴がグダグダだ。
でも……。
「何やってるのよ……あのバカ三人は」
「でも、楽しそうだよ。
三人共」
こんなメチャクチャな状況でも……イツの顔は幸せに満ち溢れていた。
……そうだな。
これがお前のやり方だもんな。
「侑哉っ……どうにかしてっ……!」
「俺も無理だって……!」
今なら、心の底から言える。
イツ、松山。
そして、陽斗と伊沢も。
みんな……
結婚……おめでとう。
―Fin―